2020.04.17
Next Challenge 〜元選手たちの新たなる挑戦〜 vol.2
漁師から独立リーグへ
株式会社KH(ケイエイチ)で、ドライバーとして働く保田拓見さんは、高校野球を終えた後1年間、淡路島でチリメンジャコ漁師をしていた。
-なぜ漁師を?
「とりあえず、地元で働こうと思ってました」
もともと淡路市の出身で、漁師は身近な仕事だった。
しかし、野球をあきらめたわけではなかった。漁師として働きながらも、NPBへの道を模索した。
たどりついたのが、ルートインBCリーグのトライアウトだった。
周囲の勧めもあり、一念発起して受験。見事合格し、滋賀ユナイテッドBC(現オセアン滋賀ブラックス)にドラフト1位で指名を受ける。滋賀はリーグ参入1年目の新しいチームだった。
上園監督との出逢い
その滋賀には、阪神・楽天で活躍した上園啓史さんがいた。当時33歳、リーグで最も若い監督だった。
高校時代「やんちゃ」だった保田さんは、そこで上園さんから薫陶を受ける。
「上園さんに出逢って、人生が変わりました」
保田さんは当時19歳。身長168センチと小柄だが、鋭いフォームから140キロ台後半の速球を繰り出すサウスポーだった。激戦区の兵庫にあって、高校時代は無名の存在。
同じ投手出身だった上園さんは、ほとんどつきっきりで指導してくれた。
NPBで新人王を取った監督からの直接指導は、保田さんにとって強烈だった。
「毎日教えてくれて、毎日叱ってくれました。野球に向き合うだけでなく、私生活も整えてもらいました」
大事な場面での登板をどんどん任せられた。
結果、NPBからも注目され、秋のドラフトの前には関西の球団から調査書が届く。
だが、ドラフト当日に名前を呼ばれることはなかった。
「調査書は来たけど、自分ではぜんぜん足りないと感じてました。NPBのファーム戦でも投げさせてもらいましたが、体格もレベルも違うなと」
飛躍を期した2シーズン目は、シーズン途中で信濃グランセローズに移籍するが、故障もあって満足な成績を残せなかった。
だが、3年目の2019シーズン、才能が開花する。
「入ったときから2年勝負のつもりでした。だけど2年目で故障し、納得できなかったんで、もう1年だけやってみようと」
怪我もなくシーズンを過ごし、36試合に登板。2勝1敗6セーブ、防御率2.35。はじめて納得できる数字を残す。
さらに信濃は西地区で前後期完全優勝を果たし、チーム一丸となって勝つ喜びも味わうことができた。
これで後悔せずに辞められる
3年目にも調査書は届いたが、結局NPBからの指名はなかった。
ドラフト会議の中継が終わったとき、現役引退を決意する。
「やり切ったと思いました。これで、後悔せずに辞められるなと」
シーズン後、リーグ主催のセカンドキャリアセミナーに出席。
講師としてやってきたKH社の小出義朗営業課長と会う。
小出課長「ウチに興味を持ってくれたんで、何回かの電話のあと、社長の小島が長野に赴いて面接し、その場で内定を出しました。
当社のモットーは"鉄は熱いうちに打て"ですので、そこは迅速に」
現役を引退したら東京で働こうと考えていた保田さんは、長野で面接してくれた小島社長の人柄にもひかれ、入社を決めた。
午前4時から始動
現在の保田さんの仕事は、中型トラックを運転してのアパレル製品の配送だ。
江戸川区にある車庫への出社は午前4時。首都圏を中心に配送を行い、午前11時には会社に戻る生活。
同社の軟式野球チームにも所属し、週に2回の練習に参加、日曜に試合がある。
小出課長「社長が野球好きで、今後は野球部ワクのみで募集、なんて話になってて、実は私、困ってるんですが(笑)。でも、この業界、募集をかけてもなかなか若い人は入ってこないんで、保田君は貴重な戦力なんです。決して野球だけじゃなくて」
会社の近くに借上社宅制度を利用した社宅で一人暮らし。家賃の半分は会社が負担してくれる。しっかり働き、週末は野球。これからプロのドライバーとして、覚えなければならないことも沢山ある。
ルートインBC独立リーグで頑張る後輩たちへのメッセージを、とお願いすると、そのときだけは「やんちゃ」が顔を出し、
「ウチの会社はいいぞー、みんな入社してください!」
破顔一笑、元気な声で答えてくれた。
(文責:ルートインBCリーグ)
[株式会社KH(ケイエイチ)]
2016年設立。首都圏を中心とした一般貨物自動車運送が主業務。本社東京都江戸川区。従業員30人。
ホームページ=https://kh-inc.jp/
[保田 拓見](やすだ たくみ)
1997年生まれ、兵庫県出身。投手。相生学園高から漁師を経て2017年滋賀ユナイテッドBC(現オセアン滋賀ブラックス)入団。2018シーズン途中に信濃グランセローズに移籍し2019年引退。
年度 | 試合 | 勝 | 敗 | S | 投球回 | 奪三振 | 防御率 |
2017 | 39 | 5 | 3 | 0 | 76 1/3 | 36 | 3.89 |
2018 | 34 | 1 | 6 | 0 | 66 1/3 | 53 | 16.77 |
2019 | 36 | 2 | 1 | 6 | 38 | 35 | 2.35 |