2019.10.15
Road to 10.17 vol.11 矢鋪 翼(石川ミリオンスターズ)
ピンチになると、その名前がコールされる。矢鋪翼。武田勝監督にもっとも信頼され、今年、最多セーブに輝いた。
クローザーは通常、3点リード以内の最終回の頭に登板する。しかし矢鋪は絶体絶命のピンチであれば、八回に呼ばれることもある。今年、満塁の場面で登板し、抑えること3度。イニングをまたいで投げたことは7度に上る。
どんなときも変わらない。笑顔でマウンドに駆けつけ、こともなげに抑えて、涼しい顔でハイタッチの輪に加わる。
30試合、33・1/3回を投げ自責がついたのは1試合のみで、わずかに3点。防御率は0.81だ。セーブ数上位の投手陣の中でも0点台は唯一であり、その安定感は抜きん出ている。
150キロを超えるような、ものすごい剛速球があるわけではない。ストレートの球速は140キロ前後だ。しかし、そのストレートに相手打者は差し込まれているのだ。
その秘密は回転数だ。投手から捕手までの投球が1分間あたり何回転するかという指標だが、回転数が多いほどストレートは揚力が高く、打者が手元で感じる“のび”や“キレ”につながる。
NPB投手の平均回転数は2200回転といわれている中、矢鋪のそれは2500回転で、NPBでも一流クラスに相当する。
さらに「2段階曲がる」というスライダーは3000回転近くを計測しており、片田敬太郎フィジカル&パフォーマンスコーチは「この回転数は図抜けている。だからこの球速でもファウルや空振りが取れる」と舌を巻く。
そして、武田監督が讃えるのはなんといっても制球力だ。「どんな場面でも自分のゾーンの中で勝負できる。これまで打たれても打たれても四球で逃げず、ストライクゾーンで勝負してきたから」と、過去の失敗が今年の成長につながったとうなずく。
野球界は160キロの時代に入ってきた。しかしそんな中、140キロ前後で空振りが取れるというのはおもしろい。このボールがNPBでどんな働きを見せるのか、非常に楽しみである。
文/土井 麻由実