2019.10.13
Road to 10.17 vol.7 前川 哲(新潟アルビレックスBC)
このサイドスローは右打者に恐怖を与える。
9月19日、読売ジャイアンツ球場で行われたBCL選抜と巨人三軍との交流試合。3回から登板した前川は2回を投げ1失点も自己最速となる154㌔を計測。右打者のバットをへし折った。対戦した巨人の打者が「正直、怖かった」と漏らすほどの球威を見せつけスカウトにアピールした。ただ、前川自身は貪欲である。
「球速が自己最速を更新できたのはよかったのですが、サイドスローの投手としては未完成。投球内容も球速ももっと成長できると思っています」
高校時代は地元の新潟産大附高のエースとして活躍。オーバースローからの140㌔台の直球を武器に3年春には母校を21年ぶりとなる4強進出に導く立役者となった。卒業後に地元の新潟アルビレックスBCに入団。高い身体能力で2年目の2016年には球速が140㌔台後半をマークし、先発陣の一角を担う。高卒で20歳という若さや将来性もあり、ドラフト指名も期待されたが惜しくも指名漏れ。さらなる飛躍が期待された翌年は右肩痛から戦線を離脱。なかなか才能が開花しなかった。
そして入団5年目の今季、大きな転機が訪れる。
5月に自己最速となる153㌔をマークしたものの、投球内容は安定感を欠き、7月7日の群馬戦で先発すると3回途中までで10失点されKOされた。
「このまま自分は終わってしまうのではないか」
そんな焦りが前川に出始めた時、清水章夫監督(元日ハム投手)と加藤健総合コーチ(元巨人捕手)から「腕を下げてみないか」と提案を受けた。
「最初は上手投げで153㌔が出たばかりだったので抵抗がありました。ただ、先発として安定した投球ができなかった時で、自分自身にも焦りがあった。そこで思い切ってサイドスローになる決断しました」
7月中旬、前川がサイドスローの練習を始めるとチームメイトが驚いた。オーバースローの時と変わらない速さだったのだ。中継ぎで150㌔台を連発。7月27日には先発で7回1失点と好投を見せ、サイド初勝利を挙げた。その評判を聞きつけたスカウトたちが次第にネット裏に集まるようになっていた。
「サイドは変化球の曲がり方も違ってツーシームがタテに沈みます。体の使い方も違い、今までとは違う部分の筋肉が張ってきて楽しい。右打者には絶対に打たれないなどの持ち味を出したいと思います」
生まれ変わった23歳は、まだまだ伸びる要素を持っている。国内でも稀有な“154㌔サイドハンド”はさらなる進化の舞台を求めている。
文・写真/岡田 浩人